腕時計の風景から

スマートウォッチを着けている人(腕のクローズアップ)

伴想人のちゃっぷまん(佐伯崇司)です。

仕事の関係で、よく飛行機で移動を
していた頃のこと。

ある女性キャビンアテンダントが、
左腕に着けている腕時計を文字盤が
腕の内側(手の平側)にくるようにしていました。
「時計の文字盤が内側で、
お仕事する邪魔になりませんか?」
と彼女に声を掛けたら、
「母の教えでずっとこうしてきているので、
私的にはこれが当たり前になっていて、
仕事の邪魔にはなりませんよ」
と笑顔で答えてくれました。

記憶の風景のなかでは、
昭和の五十年代頃までは多くの女性が
文字盤を内側にするスタイルで
腕時計を身に着けていました。
件のキャビンアテンダントのご母堂も、
ご自身の母親からそうするものですと
教わったのかもしれません。

時計とは、時刻を確認する機械です。
腕の外側に文字盤がある方が見やすい。
平成、令和と御代は移り、今日こんにち、
ほとんどの女性が文字盤を外側にする
スタイルで腕時計を身に着けています。
フェミニズム云々でもないのでしょうが。
でも、腕を返して、
俯きかげんに時刻を確認する
という仕草は、絵になる(と感じます)。

腕時計は、人類の多数派である右利きを
スタンダードとしている最たるもののひとつ。
作業の邪魔にならないように、
腕時計は利き腕ではない方の腕に
装着しますから、多数派である右利きの
利き腕でない方(つまり左腕)に装着
することが前提の構造となっています。
だからリュウズが筐体の右側に位置している。
(リュウズは龍頭。時を知らせる梵鐘を
鐘楼の梁に架けて吊るす部分=龍の頭の
形をした吊り手、に因んでいます。)

右腕に腕時計を着けている人は、
まずほとんどが左利きの人。
しかし最近、右腕に腕時計を
着けている人が増えてきています。
左利きの人間が突然増殖したと
いうことはありえないので、
右利きの人が右腕に腕時計を着け始めた
ということ。

理由は、スマートウォッチ(Suica内蔵の)。

左腕に着けたスマートウォッチで
自動改札機にタッチするためには
体をグイと捩らねばならず、
これは極めて不便。
自動改札機で不便だからといって
便利なスマートウォッチの機能を使わない
とはならなくて、右腕に装着することで
解決したという訳。
解決したというか、適応したというか。

主たる事務作業であった筆記具で字を書く
という作業動作がほとんどなくなり、
右腕に腕時計があっても仕事の邪魔には
ならなくなったという環境変化も
後押ししているのでしょう。

そもそも自動改札機も右利きを前提とした
機械の最たるもので、ここでも
左利きの人は不便を強いられてきました。

多数派の右利きは、
スマートウォッチの登場によって
マイノリティである左利きの苦労を
思い知らされたのです。
実際に自分がマイノリティになってみないと、
マイノリティが置かれている世界を
自分事として骨身に沁みて理解できない。

DE&Iが経営の重要課題となっています。
Diversityというと性別や人種、国籍、
障碍、LGBTなどが取り上げられますが、
左利きはその埒外に置き去りにされて
いないでしょうか。

右利きに「矯正」させられてきた。
不便を甘受させられてきた。
左利きは「同質」の中の
「無視してよい」小さな差ですか?
JRの新型自動改札機において、
それまで水平だったカード読み取り部を
傾斜させたのは、
少しでも左からタッチしやすいように
「歩み寄った」結果でしょう。

われわれ伴想人は、
更なる高みを目指す女性をサポートする
活動を行ってきています。
女性が活き活きと活躍できる組織と
なっていくには、点である女性個人の
頑張り・変化だけが負うには限界があり、
面である周囲の人間(特に上司)や
企業風土、環境まで広く巻き込んで
いかなければなかなか進みません。

女性が活き活きする組織。
それは男性も生きやすい組織です。
左利きの人に優しい社会。
それは弱者に優しい社会でしょう。

目指す世の中は、DE&Iという言葉が
死語となっている世の中
(私見です)。

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