nice to have か must have か

ウエイクアップ・伴想人
尾関春子(おはる)です。

歩くことと旅が好きで、二年ほど前に
「四国八十八カ所巡り」を始めました。

東京と四国の往復を含む数日間で
いくつかの札所をまわる旅を繰り返す
いわゆる「区切り打ち」方式で、
この春は高知県東部を歩いて来ました。

昔からお遍路さんが歩いてきた道の多くは
今は舗装され車道と一体化していますが、
山中の寺に向かう山道や
一面の田んぼの中の畦道もあり、
変化に富む風景は外国からも多くの
遍路ウォーカーを惹き寄せている
魅力のひとつです。

高知との県境近くの徳島県南東部から
遍路道は海岸に近づき、
景色が大きく変わります。
小さな港町を通る辺りから、
道沿いにはかつての
大地震・大津波を記録する石碑が、
あらゆる電柱には地震の際に
避難すべき高台の方向を示す標識が、
次々と現れます。

県境を越え高知県に入ってからは
室戸岬に向かう太平洋沿岸の道を
ひたすら進み、岬をぐるりと
まわってからは高知市内に向けて、
海岸と並行しいくつかの
小さな町を通りながら進みます。

旧くからの家並みが保存されている
集落がある一方、海岸に近い町では
役場や郵便局、小中学校が
統廃合も伴い内陸に移動し、
跡地や保育園の隣などには
頑強そうな津波避難タワー
(大階段付きの三階建ビルの鉄骨だけが
建っている様子を想像してください)
がそびえ立ちます。

やや内陸にある学校では
春休み中の広い校庭に
避難タワーが建設の真っ最中で、
近い将来起こると言われる
南海トラフ大地震と津波への備えが
急ピッチで進む様子が
行く先々に広がるのでした。

町の中枢機能が内陸に移動した後は、
かつて宿場や地場産業の中心として
賑わった頃の名残はありつつも
どことなく寂寥感が漂っていました。

時の流れとともに地形が変化し、
町が姿を変え人の流れが移ろい、
町や村がときには消滅するのは、
歴史の必然かもしれません。

しかし強く心に残ったのは、
産業や文化の振興や利便性向上のような、
「あればなおよい(nice to have)」
何かの追求ではなく、
迫りくる自然の脅威から
命と生活を守るための
「なければならない(must have)」
変容でした。

町の存続のための待ったなしの決断と
行動の前に、昔懐かしい景観や
風情を惜しむ観光客の感傷は
軽いものに思えました。


伴想人は四年前から、
エグゼクティブ・メンタリングと
リーダーシップを多角的に考える
ワークショップとで構成する
プログラムを実施し、
日本の上場企業を主な舞台として
経営の中枢での活躍を期待される
女性管理職の育成を支援しています。

参加いただいている企業のほか
いわゆる伝統的日本企業でも、
永続的な事業の発展のためには
経営の中枢で女性が活躍できることが
必須(must have)であると早くに察知し
思い切った制度改革や風土変革を
断行する企業では、
徐々に成果が現れ始めています。

しかしながら
日本のジェンダーギャップ指数は
世界の底辺を這い続けているのが現状です。

誰もが属性に捉われず能力と意欲に応じ
いきいきと活躍できる組織や社会が
「あればなおよい(nice to have)」
程度のものと捉えられている限り、
制度や風土の改革は漸増的なものにとどまり、
やがて組織(社会)は取り残され
淘汰されていくのではないでしょうか。

バイアス・フリーな組織や社会が
「不可欠(must have)」であると信じ
その実現のために果敢に行動する
リーダーやその卵たちの伴想人でありたい
と、思いを新たにしながら歩きました。

そして海岸沿いのかつての
土佐くろしお鉄道の軌道跡を歩きながら、
地震が来たらすぐに高台か
避難タワーに向かって走り出せるように、
背中のリュックを軽くせねば
と思ったのでした。

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