社内コーチの育成とSansanの成長戦略―
人事施策としての評価と展望
Sansan株式会社
CWO(Chief Work Style Officer) 角川素久 様
人事部 Employee Successチーム コーチ 三橋新 様
業界 | WEB・インターネット、サービス ソフトウエア |
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売上規模 | 非公開 |
従業員規模 | 300人(2017年8月時点) |
主要事業内容 | クラウド名刺管理サービスの企画・開発・販売 |
※ 所属、役職は取材当時のものです
企業の成長を加速させるために
角川:
Sansanは「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションを掲げ、それを実現するために高い能力を持った人材を採用しています。事業の成長に伴い多くの社員を採用し、社員数が一気に増えると、それまでのように社員一人ひとりにまで経営層が目を行き届かせることが難しい状況になりました。また、社員が増えるのに比例し、退職する社員も増えるように。そこで「さらなる生産性向上に向けて、今後のSansanには何が必要か」を社長と話し合いました。そして「社員が実力を発揮しきれないのは、一人ひとりが課題や悩みを抱えて、目の前の仕事に集中できないから。集中できれば、フルに実力を発揮でき、社員も会社もより成長できる。そこにSansanのさらなる成長への可能性があるはずだ」と考えたのです。
そしてたどりついた解決策がコーチングでした。コーチングは、一人ひとりの実力を引き出し、行動を促進するもの。Sansanの人材育成の考え方「座学ではなく、現場での経験こそが役立つ。人は失敗して学んでいく」にも則っている。そこで当時、部活動として行われていた三橋のコーチングを、社内制度に転換したのです。
三橋:
最初は、個人的にコーチの資格(CPCC®※)を取得し、業務時間外に社員に声をかけて実施していたのです。1年間それで活動し、翌年に社内の部活動として申請。予算をいただき、月に限られた回数だけ行っていました。個人的には「もっとたくさんの社員にコーチングを」と思っていたところ、社内制度への転換が決まったのです。嬉しかったですね。
※ CTI 認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ CPCC®(Certified Professional Co-Active Coach)
角川:
会社の業務や風土が分かっている社員がコーチをする方がいいと考え、対個人のコーチングには外部のコーチは招かず、制度が始まって以来三橋が担当しています。コーチングがどれほど効果を創出するか、まずはスモールスタートで開始しました。
「社内をよく知る第三者」という社内コーチのメリット
角川:
高い目標への挫折感、社歴の長さなどの差によって生じる会社へのコミットメントのギャップから、モチベーションが下がってしまう社員もいました。ですが上司が目の前の業務に忙しく、そういった社員にフォローをする時間がないことも。そうなると、誰にも相談できない社員はモヤモヤを抱えたまま一歩も動けない状態が続いてしまいます。
しかし定期的に報告されるアンケート結果を見ると、三橋と話した社員はみな課題が明確になり、何かしらの決断・解決にたどりつけている。つまり悩みや不安を払拭して目の前の業務に集中することができているようです。これは当初のねらい通りで、そこに第三者として社内コーチが関わることはとても有効だと実感しています。
三橋:
リーダークラスには、本音で自身の課題を話し、そして向き合う時間としてもコーチングが役立っていると感じていますね。本人の許可を得てお話する事例ですが、「答えを示しても部下が動かない」と不満を感じていた営業部長がいました。きちんと指示は出しているのに、なぜか数字が思うようにあがらない。その理由がわからない。そんな状況に焦りを感じながら、コーチングを受けていました。じっくりと本音で話していくうちに「指示はするが、部下の話を聴いていない」自分に気づき、「相手ではなく、自分が変わる必要がある」と覚悟を決めたのです。そこで、「話を聴くランチ」をメンバー一人ひとりと実施しました。彼は話すことが好きなので、相当我慢したでしょうね(笑)。その結果、グループの雰囲気が良くなり、成果もでるように。営業部長として忙しいと思うのですが、「人が自ら動くきっかけを作る」場として今でも継続していますし、効果を感じた彼の部下も自身のメンバーに実施し始めています。
ほかにも部のリーダーなどから「部下の表情が明るくなった」と喜びの声を聴くことも増えました。また、口コミで「コーチング、いいぞ」と広がっているのを感じます。違う部署同士の飲み会などで話題になって申し込んでくる社員も増えました。「部下をよろしく」であるとか「うちのチームにコーチングを」というリーダーも増えてきました。現在までに、全社員のうち、150名程度がコーチングを受けました。コミュニティの活性化に一役買っていること、コーチングの認知度と有用性が認められていることを感じられるのは嬉しいですね。
角川:
コーチングを通して得た個人の情報を三橋から報告されることは決してありませんが、多くの社員にコーチングをすることで、Sansan が抱えている最大公約数的な課題や懸念事項は見えてきます。それは人事施策にもフィードバックできていると思います。
必要なときにすぐに提供できる。だから結果につながる
三橋:
社内制度ですから「どう会社に貢献できるか」を重要視し、コーチング1回1回で結果を出す、ということにはこだわっています。そのためにコーチングでは必ず次回までの行動目標を決めています。コーチング直後から実践してもらい、その後の業務や生活がどう変化したかを次回のセッションで確認します。そして良かった点・反省点を明確にし、また次の目標を定めます。コーチングを通してPDCAのサイクルを回しているわけですね。
三橋:
私はこれまで多くの部署を歴任してきました。様々な業務の辛さ、それを乗り越えたからこそ得られる達成感や充実感、幸せを知っています。社内事情に精通しているからこそクライアントの悩みや不安に親身になれる、理解しやすいというメリットもあります。経験を元に、話し方や問いなどは、年代や役職などレイヤー毎に変えるようにしています。
気軽に受けてもらうため、いまは最短で15 分という時間を設けて実施しています。クライアントが受けたいときに受けられる、必要とされるときにコーチングを提供できるというのは企業内コーチである大きなメリット。社内で顔を合わせると「決めたこと、できてる?」「あれからどう?」と声をかけます。とことん相手にコミットできるのも、企業内コーチだからこそです。
角川:
当社はすべての施策に対して、常に効果測定を行います。期待値を超えないものはすぐに取りやめます。これはコーチングも同じで、アンケートを採り、報告することを課しています。6ヶ月単位で継続の可否が審議されるので、シビアですね。ですが緊張感が生まれることで、制度は常に鮮度を保つことができる。成果があがるように成長し続けられるのです。
コーチングを受けた人全員に実施するアンケートは、効果が数値で把握できるような設問にしています。ただ、コーチングの効果はすぐに出ないケースもありますし、視覚的・数値的に表現できるわけでもありませんから、社内に対してどのような効果を上げているかがわかりやすくなるように、アンケートの内容は常に見直し、改善しています。
角川:
スモールスタートで始めましたが、いまでは多くの社員がコーチングを経験し、その数は日々増えています。現在、もう一人の社員がコーチングを学んでいます。コーチが増えれば、より多くの多様な社員を対象にコーチングを行うことができるでしょう。
また、新たな取り組みとして社外のコーチにも協力をしてもらい、チーム単位へのコーチングも行っています。対象の人数が増えることで、より口コミは拡散していますし、評判や噂を聞いた社員が興味を示して新たに参加しています。
三橋:
対個人のコーチングをきっかけにして、対チームのコーチングをお願いされることがあります。また、その逆もあります。様々な角度からコーチングを利用してもらい、これからも、社員の本質的な変化から成果につなげるサポートをしたいと思います。
角川:
コーチングを介して社内のコミュニティが良い方向へと活性化していると感じています。その結果、社員が力を合わせ、ミッションの達成に向けて取り組めている。企業内コーチは、Sansanの成長にも大きく貢献する存在となっています。今後にも期待しています。