Case

導入事例

10年間続く「社内コーチ制度」
そのメリットと継続の秘けつ

NECライフキャリア株式会社
代表取締役社長 佐藤秀明 様
コーチングユニットマネージャー 野末光彦 様

社内で多様な経験を積んだ人材を社内コーチとして育成・登用しているNECグループ(以下、NECと表記)。現在5人の社内コーチは、次の経営層や役員の候補となる人材に、1年間のエグゼクティブ・コーチングを行っています。この取り組みはスタートしてすでに10年。社内コーチが次世代経営人材へのコーチングを担うメリットは? またその取り組みを継続する秘けつとは? NECライフキャリア株式会社の代表取締役社長 佐藤秀明さんと社内コーチである野末光彦さんに、取り組みの立ち上げ期から参画しているウエイクアップのコーチ、小西勝巳がお話をお聴きしました。
業界 ITサービス、社会インフラ
売上規模
(連結)
3兆4,773億円(2023年実績)
従業員規模
(連結)
105,276名(2024年3月末)
主要事業内容 社会公共、社会基盤、
エンタープライズ、
ネットワークサービス、
グローバル

※ 所属、役職は取材当時のものです。

キャリアの大きな変化を受け入れる覚悟と
リーダーとしての確信を培うコーチング

小西:
NECで社内コーチの取り組みが始まったのは10年前。検討がスタートしたのはさらにその前のこと。私は当時はNECの人事部として検討・立ち上げに携わり、現在はウエイクアップとしてサポートを行っています。この取り組みのねらいや継続するための工夫などを佐藤さん、野末さんと一緒にご紹介できればと思っています。
NECでは毎年30~50名の新任の統括部長(事業や機能の責任者)が任命されます。その全員が、約1年間のエグゼクティブ・コーチングを受けています。担当するのは、NECで統括部長を経験し、ウエイクアップでプロコーチの資格CPCC® ※1を取得している社内コーチ。「全員が参加する」「社内コーチが担当する」というのが、NECの取り組みの特長。そして効果を上げている理由でもあると思います。まずはこの取り組みが始まったきっかけから話していきましょう。

佐藤:
10年前の2014年ごろは、NECが企業としてのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の再定義や事業ポートフォリオの見直し、そして企業文化の改革に着手し始めた時期です。会社として大きな転換期だったと思います。その経営の転換を支える一つの施策として、社内コーチ制度もスタートしました。
統括部長はNECの中で一つの事業や全社の機能を任される重責ある立場です。統括部長になるまでに多様な経験を積めるようキャリアパスを工夫していますが、統括部長になるとそれまで以上の規模へとマネージする業務と人員が拡がり、求められる成果と責任も大きくなります。
個別のプロジェクトで成果を上げるのではなく、複数のプロジェクトを束ねて組織として成果を上げ続けることはもちろん、その過程で人も育てる、よき組織文化を育んでいくことも求められます。事業規模としては数百から数千億円、部下となる社員も多いところでは数千名ほどというところもあります。

野末:
ある日を境に中小企業、もしくはそれよりもかなり大きな中堅企業の社長と同様の責任を求められることになります。時には初めて手がける事業領域の統括部長になることもある。だからといって「慣れるまで数年は様子を見よう」とはいかない。会社としては即成果を上げてもらうために任命しているわけですから、1年目からリーダーシップを発揮してもらわないといけない。多かれ少なかれ、統括部長は不安や心配を抱えることになります。

※1 CPCC®:CTI 認定 Certified Professional Co-Active® Coach(通称:CTI 認定プロコーチ)

佐藤秀明 さん(中央)、野末光彦 さん(右)、ウエイクアップ 小西勝巳(左)
佐藤秀明 さん(中央)、野末光彦 さん(右)
ウエイクアップ 小西勝巳(左)

佐藤:
統括部長のようにバックグラウンドも年齢もさまざまな人材をサポートするためには、一律的な内容の研修では対応できないと考えました。そこでコーチングならどうか、と小西さんに相談して取り組むことになったのです。

野末:
ゴールは、転換期にあるNEC の中で、1年かけて「統括部長としての覚悟」「リーダーとしてやっていける確信」を身につけ、大きな組織を率いるリーダーとして自立してもらうこと。挙手制ではなく、全員参加にしたのが功を奏していると感じています。縦割りでサイロ化しがちだった企業文化の中、大きな責務を一人で抱え込むことなく、統括部長の同期同士で話したり、相談したりできる環境もできていると感じます。

佐藤:
コーチングの効果は客観的な数値で結果を示しにくいものですが、新任の統括部長が各自の持ち味や志を生かしながら大きな組織をリードしていくために、とても有効に機能していると思います。野末が話したような横のつながりができることもあり、コーチングを受けた統括部長たちから「コーチングを受けて良かった」と感謝の言葉が毎年数多く寄せられています。

社内事情に精通した社内コーチのメリットは
信頼関係構築の速さと深さ

小西:
コーチはクライアントとなる企業や対象について詳しくある必要はありません。むしろ、詳しすぎたり同様の経験がある場合、個人の経験や考え方がノイズになってしまうこともあります。そういった意味では同じ企業で、かつ同じ統括部長を経験している「社内コーチ」という存在は矛盾しているとも言えますね。

野末:
統括部長へのコーチングは1 年間という限られた時間です。コーチはこの限られた時間の中で、統括部長から信頼を得て伴走していく必要があります。その立ち上がりのスピードを速めるには、統括部長の経験を持ち、同様に大きな壁を越えてきた先輩がコーチとなった方が抵抗感や心理的なハードルが下がり、深い信頼関係が築けると考えたのです。

佐藤:
新任といえども統括部長として業務を遂行し、成果を出さねばなりません。また、統括部長は将来NECの役員や経営層を担うことが期待されている人材でもあります。そうした状況の中ではNECの業務や風土、現状や使命などを熟知している社内コーチだからこそ力になれるシーンも数多くあると感じています。

野末:
そうした背景から、社内コーチの条件には次の3つを掲げています。「自身の統括部長経験」「グローバル事業経験」「人への興味」です。新任の統括部長の苦しさや大変さを知っていて寄りそえる、そして多様な経験から得た広い視点で相手を見つめられる、なにより人が好きである。そんな人に「社内コーチになりませんか」とお声がけをしているのです。

佐藤:
ただ、「社内コーチ」というキャリアはまだ一般的ではなく、キャリアパスとして考えたことがある人はほとんどいないはず。海外を含めてバリバリのビジネス経験を重ねてきた人に大転換とも言えるキャリアチェンジを打診するのです。私たちも慎重に人選をし、意義などを説明し、時間をかけて話をしたうえで、納得して前向きに向き合っていただける方にお願いしています。社内コーチを選抜・育成するのは、とても難しいですね。

野末:
私も社内コーチの一人ですが、この仕事に楽しさとやりがいを感じられています。これまでのキャリアとは全く違うジャンルへキャリア、人生を踏み出したわけですが、そこで出会った初めての学び、考え方はとても興味深いものでした。あと10年早くコーチングに出会っていれば自分のマネジメントももっと楽だったろうと思いますが(笑)、いずれにせよ、社内コーチへの転進を決断して良かったなと思っています。現在、社内コーチは5人いますが、みんなそれを感じていますね。

小西:
選抜・育成は難しいけれど、社内コーチという仕組みにはクライアント側・コーチ側、それぞれメリットを感じていらっしゃるということですね。

佐藤:
はい。社内コーチには会社の方針や目標、MVVなど経営のコンテクストの変化に合わせて、迅速かつ柔軟に問いや対応を変えられるという大きなメリットがあると感じています。一方、社内の状況にとらわれずに新たな発想を学ぶ研修などでは、外部の研修プログラムを採用する場合ももちろんあります。新任統括部長向けのコーチングは今までお話ししたような意味での効果があると感じていますが、毎年きちんと振り返り、効果検証を行い、社員にとって最適な支援方法を選んでいくという原則は変わりません。

関係者が課題を共有し、変化と成長の実感も共有する
地道で大変だが、それが近道

小西:
取り組みの効果がより実感できるような工夫というのはどのようなものがあるでしょうか。

野末:
佐藤が話したように、コーチングは成果を数値化するのがなかなか難しい。またクライアントやその組織の変化がわかるまで時間がかかります。それでは経営層や上司たち、なにより統括部長本人が納得できないこともあります。そのため、1年のコーチング期間の最初のゴール設定を、統括部長・上司・コーチ・ビジネスパートナー人事の4名で行います。そして1年の最後にそこに到達したかをまた4名で確認します。そうすることで変化や成長を自己・他己で実感できます。それが冒頭の統括部長からの感謝の言葉につながっている要因の一つでもありますね。

小西:
社内コーチの方の活動で特徴的なことはありますか?

野末:
2週間に1回、守秘義務を尊重しながら、社内コーチチームとしての研鑽会を開催しています。私たちはウエイクアップでプロコーチの資格(CPCC)を取得しています。その学びが、コーチングの軸であるべきだと考えています。その軸から自分のコーチングがブレていないかをお互いチェックしているのです。コーチングは、個性を乗せたアプローチは特色を出せますが、個人的な経験を軸にした対話は質が落ちてしまう、と考えています。その意味で、ウエイクアップとのコラボレーションを継続するのは安心材料にもなります。自分たちでは気づかないブレに、気づける機会なのです。基本の軸に戻れる拠り所がすぐそばにあるというのは心強いですよ。

小西:
社内コーチによる統括部長へのコーチングという取り組みを10年継続されてきたわけですが、今後の展開について考えていらっしゃることはありますか?

野末:
10年継続してきたと言っても、同じことを繰り返してきたわけではありません。その時々の経営アジェンダを受けて、振り返ってみると少なくとも3つのフェーズがあったと思います。まず最初の立ち上げ期はここまでお話ししてきた統括部長を対象にしたコーチングで、これが基盤になっているのは確かです。そして2019年頃から経営方針として浮上してきた「挑戦する人」作りでのコーチングや女性リーダーをもっとサポートしていくためのコーチングを拡充してきました。現在はさらにジョブ型人事制度の導入とも同期しながら「キャリア自律」をサポートするための活動を強化しているところです。

佐藤:
そのためには社内コーチの体制を強化すること、例えば女性コーチを増やすことなども考えています。同時に、10年継続してきたとはいえ効果検証は常に続けています。NECの経営方針や目標などの変化に合わせて、あるいはもっと適した手法があれば、転換もあり得ます。そのために、現状の取り組みを最適解だとは考えず、常にブラッシュアップしていきたい。「コーチングありき」ではなく、経営課題を解くには何が最適か? もしコーチングが有効であるならどう活用すると最も効果的なのか? といった本質を常に追求したいと考えています。そうした面でウエイクアップさんとの連携や協働もさらに進めさせていただければと思っています。

小西:
ともに頑張らせていただきます! ありがとうございました。

集合写真

取材日:2024年7月8日
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