双葉電子工業株式会社 様
- 業界名
- 電子機器・電子デバイス製造業
- 売上規模
- 約481億円(2025年3月期 連結)
- 従業員規模(連結)
- 2,534名(2025年3月31日現在 )
- 事業内容
- 電子機器・電子デバイス関連事業、生産器材事業
お話を伺った方
※ 所属、役職は取材当時のものです。
- 取締役常務執行役員
- 冨田正晴 様
- 業務管理本部 人事部 部長
- 櫻井聡 様
- 業務管理本部 人事部 人財企画開発課 課長
- 米沢禎久 様
- 業務管理本部 人事部 人財企画開発課 担当課長
- 古川恵美 様
- システムソリューション事業センター 営業二部 部長
- 木島章博 様
双葉電子工業株式会社が直面していたのは、単なる業績の課題ではありませんでした。既存事業の長期的な低迷、新規事業の伸び悩み──その背景には、組織の深層に根付いた「変化への抵抗」がありました。「言われたことをやっていればいい」「本音は言わない」「異質を避ける」──そんな空気が、組織の活力を奪い、未来への挑戦を阻んでいたのです。この状況に、同社は本気で向き合い続けています。経営課題として「変わらなければならない」と覚悟を決め、その突破口として選んだのが“対話”でした。単なるコミュニケーション改善ではなく、組織文化を再構築し未来の事業を支える土台をつくるための施策としての対話です。その第一歩として導入したのが、ビジネスの現場で役に立つためのコーチングスキルを理解・体得する実践型トレーニングプログラム「Co-Active® Skills」(※1)でした。今回は、企画された人事部の皆様、そして実際にプログラムを受講された営業部や経営層の方々に、対話を通じた変化のプロセスとそこから生まれていく会社の未来の姿について、ウエイクアップの井上と五十嵐がお話を伺いました。(文中敬称略)
この記事の目次
導入の背景:組織文化変革に向けた「一本目の杭」としてのCo-Active® Skills
本日はよろしくお願いします。まずは、今回の「Co-Active Skills」導入に至った背景についてお聞かせいただけますか?
米沢 はい。当社では、既存事業の長期的な低迷や新規事業の伸び悩みが続いており、組織として変化に対応できていないという課題がありました。社内には「変えようとしない」「今までどおりでいい」という空気があり、関係性も硬直化していたように思います。 そのような組織文化があることを自覚して脱却していくことを意図したときに、2日間の本格研修(CAO: Co-Active Approach for Organization(※2))を導入する前に、まずは4時間の「Co-Active Skills」を部長や次長を中心とした25名に実施しました。直近1年半の間に、役員・管理職層すべてに自己理解や管理能力に関するアセスメントを実施して、部下との関係性構築を今一度学び直そうとしていたところだったのです。今後に向けて一本目の杭を打つイメージで、社内での受容性を高めると同時に、対話の価値を体験的に理解する場をつくることが目的でした。
社長の対話会など、社内に“対話”の芽が出始めていたタイミングでもありましたよね。
古川 そうですね。ちょうど社長が「従業員と対話したい」と言い始めた時期でもあり、社内に“対話”という言葉が浮かび始めていたのです。まさに絶妙なタイミングだったと思います。そして今回のプログラムは対話やコーチングについて、組織内の“人のあり方”を含めて変わっていくことも学びに含まれている点も、実施を決めた大きな理由でした。
対話の挑戦:「人に焦点を当てる」ことの難しさと価値
櫻井さんは、財務課長として研修を受講された後、人事部長に就任されたと伺っています。ご自身の中で、どのような変化がありましたか?
櫻井 はい、Co-Active Skillsのプログラムでは「人に焦点を当てる」という考え方を体験し、非常に濃密な時間だったと感じています。意識していても、気づくと“モノ・コト”に戻ってしまうんですね。人に焦点を当てるには、継続的な意識と訓練が必要だと痛感しました。財務の仕事では、どうしても数字や仕組みに向き合うことが中心になります。業務の性質上、目的や成果にフォーカスすることが求められますし、対話の中でも「何をどうするか」が主語になりがちでした。でも、人事という立場になってからは、“人”が主語になります。従業員一人ひとりの価値観や想いに向き合うことが求められるようになり、対話の質もまったく違うものになったと感じています。
まさに、対話のスタイルが変わったということですね。櫻井さんご自身は、具体的にどのような場面でその違いを感じられましたか?
櫻井 たとえば、部下との面談で「将来どうしたいか?」「あなたはどうやりたいか?」といった問いを投げかけるようになりました。以前は、業務の進捗や課題に対して「どう対応するか」を中心に話していたのですが、今はその人自身の考えや感情に焦点を当てるようにしています。すると、相手の表情や語り口が変わるのです。最初は戸惑いながらも、少しずつ自分の言葉で語ってくれるようになる。そういう瞬間に、「ああ、これこそが対話なのか」と実感しました。
それはまさに、組織文化の変化にもつながる実践ですね。人事部として、今後この対話のアプローチをどのように広げていきたいですか?
櫻井 今は「従業員を顧客と捉える」という方針のもと、人事部としても対話を軸にした関係性づくりを進めています。経営課題として、新しい事業の柱を立ち上げていく必要がありますが、そのためには“人”の力が不可欠です。そのため、次のステップとしてCAOプログラムの実施を決めました。年内に社長や取締役を含む経営層約20名の方々が受講します。経営層自らが学び、対話を通じて個々人の可能性を引き出していくことで、組織としての柔軟性や創造性を高めていきたいです。これは経営の土台をつくる、きわめて重要な取り組みだと思っています。
現場での実践:「話しかけやすい空気」が生まれた
続きまして木島さんは、海外出向からの帰任後にCo-Active Skillsを受講されたと伺っています。現場での実践を通じて、どのような変化を感じられましたか?
木島 はい、私自身、海外から戻ってきたばかりということもあり、周囲との“時間の壁”を感じていました。コミュニケーションの積み重ねがない状態で、いきなり部長職として関わるのは正直難しさもありました。Co-Active Skillsを受ける前は、報告を受けたらすぐに指示を出すスタイルでした。もちろん話は聞くのですが、「じゃあこうして」と結論を急ぐことが多かったと思います。でも研修を通じて、「なぜそう思ったのか」「どうしてその結論に至ったのか」を聞くようになりました。私自身も驚いたのが、そのようにメンバーと関わっていると、話しかけてもらえる回数が増えたのです。以前は“木島さんには話しづらい”と思われていたのかもしれません。今は、「木島さんはどうしてそう考えるのですか?」と逆に質問されることも増えて、対話のキャッチボールが生まれている実感があります。
それはまさに、関係性の質が変わってきた証ですね。実践の中で、難しさを感じたことはありましたか?
木島 ありますね。特に「忍耐力」が必要だと感じました。私は表情に出やすいタイプなので、相手の話を聞きながら「それは違うのではないか」と思うと、つい顔に出てしまうのです(笑)。でも、その考えをいったん横において、まずは相手の考えを受け止めるようにしています。実際にプログラムで行ったロールプレイングは非常に効果的でした。誰が相手になるか分からない中で、即興で対話をすることで、自分の癖や反応に気づくことができました。あのような実践の場は、これからもっと増やしていきたいですね。
この取り組みを、会社の未来にどのようにつなげていきたいですか?
木島 対話を通じて、キャリアや役職に関係なく意見が尊重されるようになれば、もっと良いアイデアが出ると思います。営業戦略や企画も、部長や課長の意見だけでなく、若手の視点が加わることで、より実効性のあるものになるはずです。今はまだ「上が決める」という空気が残っている部分もありますが、対話を通じて「一緒に考える」「一緒に創る」という文化に変えていきたい。それが、会社の未来を支える力になると信じています。
経営層の気づき:「これは自分の問題だ」と思った瞬間
冨田さんには、2日間の「CAO」公開コース(※3)にご参加いただきました。冒頭のデモンストレーションで、強く印象に残ったことがあったそうですね。
冨田 はい、まさにその冒頭30分ほどで完全にスイッチが入りました。リーダー(講師)のお二人が部下への関わり方の例をいくつか見せてくださった中の一つで、「部下に対して業績や事実ばかりを詰める」関わりがあったのです。それを見た瞬間「これは自分のことだ」と思ったのです。自分が普段やっていることがそのまま再現されていて、一緒に参加していたメンバーも「冨田さんが話しているのかと思った」と言っていたほどです(笑)。あの瞬間に「自分は全く相手の話を聴いていなかったのか」「できる限りをこの場で吸収して、自分自身を変えなければいけない」と強く思いました。
冨田さんの中では、その気づきはどのような変化につながっていきましたか?
冨田 研修後すぐに11名の部下と面談を実施しました。会議での質問もこれまでの「なぜうまくいかなかったのか?」と過去の原因を掘り下げる問いから、「これについてあなたはどう感じているの?」「どうすればうまくいきそうかな?」という未来に向けた問いに変えました。相談を受けることも増えましたし、自分が変わることで、周りの皆さんの関わり方も変わっていくのを実感しています。結果的に周囲の多くの方から「冨田さん、変わりましたよね」と言われています。
未来への展望:対話が生むポジティブなスパイラル
冨田さんにとっても、周囲の方々にとっても非常に大きな変化であったことが伝わってきます。この学びは、御社の経営の質にどのようにつながっていくと思われますか?
冨田 これまでは、欠点をどう克服するかという視点で人を見ていた部分もありました。でも、今回の学びで「人の可能性を信じる」という考え方に触れ、その見方が大きく変わりました。今までスポットライトが当たらなかった人にも、光を当てるようになってきたのです。会社を支える多くの従業員の中に存在する、多様かつ広い可能性に気づき始めています。今年中にCAOのプログラムを経営層も全員受講することを決めており、経営として人への見方が変わり始めていることを既に感じています。
最後に、冨田さんが願う双葉電子の未来について、改めてお聞かせください。
冨田 はい。私が今一番強く願っているのは、肩肘張らずに、意見や情報が行き交う組織になっていくことです。1on1の面談だけでなく、日常のやり取りの中で、お互いを知る会話がもっと増えていく。そうすることで、関係性の質が上がり、結果として業績にもつながっていく──そんなポジティブなスパイラルを生み出したいと思っています。 もちろん、1人や2人が変わっただけでは組織は変わりません。今回のようなプログラムを通じて、次に活かしてくれる人が少しずつ増えていくことで、全体が変わっていくと信じています。
まさに、“対話”が経営の土台をつくっていくのですね。
冨田 おっしゃるとおりです。この取り組みは、単なるコミュニケーション研修ではありません。会社の未来をつくるための、経営施策そのものだと思っています。人の可能性を信じるという視点が、経営の意思決定にも浸透していくことを願っています。
さいごに:対話は“文化”を変える力を持っている
双葉電子工業が取り組んでいる「対話による組織変革」は、単なる研修導入ではなく、文化の再構築への挑戦です。人事部、現場、経営層──それぞれの立場で「人に焦点を当てる」ことの意味を体感し、実践し始めた今、組織の空気は確実に変わり始めています。
「これはラストチャンスかもしれない」
そんな覚悟とともに、対話を通じて未来を切り拓こうとする姿勢は、同じような課題を抱える多くの企業にとって、大きなヒントになるはずです。
※1 Co-Active® Skills:ビジネスに必要なコーチングスキルを理解・体得する実践型トレーニングプログラム(Co-Active® Approach for Organization、通称CAO)の短縮版(0.5日)。
※2 CAO:Co-Active® Approach for Organization の略称。ビジネスに必要なコーチングスキルを理解・体得する実践型トレーニングプログラム。世界中で15万人以上、日本だけでも13,000人を超える人が受講しているCTIのコーチ・トレーニング・プログラムをビジネス向けにカスタマイズしたもの。
※3 CAO公開コース:ウエイクアップが非定期で開催している、CAO導入を検討中の企業様に向けたプログラム。通常は一企業内で導入されるCAOのプログラムを、複数の企業の人事部門や意思決定者の方々が一緒に受講してその価値を体感いただきます。




