<はじめに>
今回から皆さまにお届けする、新シリーズ 「歴史に学ぶ日本的なシステムとリーダーシップ」では、‘ちっちゃな頃から歴史好き♪’という私の一面を活用し、日本的なシステムとリーダーシップについての記事を連載していきます。
このシリーズを展開するにあたり、前提となる事実認識は書籍などの2次以降の情報に頼らざるをえず、従って何が真実かについて実は定かでないという慎重さと、先人達のかけがえのない人生に対する最大限の敬意と共に在る姿勢を、それぞれ大切にしたいと考えています。
さらに、私たち日本のさらなる成長を願う気持ちと、日本はリーダーシップの実践や組織開発という文脈でも世界に貢献できる、という私自身の視点が、本シリーズの下敷きになっています。
従って、歴史上の人物や組織を評価、評論することはこのシリーズの目的ではなく、現代に生きる私たちがそのトピックから何を学び、私たちの意識の進化にそれをどう活用できるか、という視点で論を展開していきたいと考えています。
他のシリーズ同様、気軽に楽しんでいただければ幸いです。
<第1回 ~ 錦の御旗 ~>
古から、日本の歴史における錦の御旗が持つ意味は、自分たちの後ろに国家の最高権威としての天皇や朝廷が存在している、すなわち、天皇や朝廷を擁する自分たちこそ正しい、という正当性の証です。
江戸末期においても錦の御旗は大きな意味を持ち、鳥羽伏見の戦いで薩長軍が天高く掲げた錦の御旗を一目見て、徳川方の総大将である徳川慶喜は一気に戦意を喪失した、といわれています。
実際に慶喜の心の中で何が起きていたかは、今となっては知る術もありません。
ただ、「朝廷に弓を引く逆賊には決してなれない。もしそうなってしまったら、自分がこの世に存在している価値はない」という強烈な思い込みに思考を乗っ取られ、本来持っている自分の可能性を制限し、その後、反応的に行動してしまった、とする見方を私は否定できません。
ここで慶喜の行動を評価することが、この記事の目的ではありません。
私が着目している点は、それまでに培ってきた価値観や思い込みが、ここでは薩長軍が錦の御旗を掲げるという想定外の出来事を引き金にして、一気に人間を思考停止状態に巻き込んでいく、という点です。
慶喜という、当時の最高水準のリーダー教育を受けていた優れた存在をもってしても、それは起こりうるのです。
さらにここで着目したいことは、実際に戦場で掲げられた3本の錦の御旗は、朝廷から薩長が正式に下賜されたものではなく、長州藩が模倣して作ったものだったというエピソードです。
その真偽はさておき、もしそうだったとしたら、その時点での天皇や朝廷の率直な意向がどこにあったのかは客観的には誰にも分らないわけで、その時点で薩長と互角以上の戦力を有していた慶喜には、自らの価値観を損なうことなく目の前の現実により主体的に関与し、別の未来を創造するという選択肢が残されていたはずです。
もちろん、歴史を語る上では、1人の人間の力では如何ともしがたい時流の力も無視できません。
従って、慶喜が別の可能性を持っていたはず、というその点で彼を批判する意図は全くなく、逆に、彼が担った歴史上の大きな役割に対する深い敬意と、人間としての共感を、ここに表します。
さて、翻って、現代に生きる私たちのことです。
時代と環境は違うとはいえ、その志を受け容れ、ひたむきに人生を生きているという点では、私たちも同じリーダーです。
今に生きる自分にとっての錦の御旗は、いったい何なのでしょうか。
少し脱線して正直に告白しますが、私自身が思考停止に陥る引き金の1つは、自分にとって理不尽と感じる非難です。
主体的に生きていれば、周囲からの何がしかの批判や非難を受けることは当たり前と頭では理解していますが、その非難があるレベルを超えると、一気に思考停止状態に突入し、その人との関係を遮断する傾向が私にはあります。
その奥にある私の思い込みは、「自分はとても繊細で、すぐに深く傷ついてしまう。だから自分を深く傷つける存在とは離れていないと生きていけない」というものです。
この思い込みが自覚できてからは、このパターンでの思考停止の発生確率は下がってきているように自分では感じていますが、慶喜と比べると、そもそものレベルが低いですね(笑)。
さて、話を錦の御旗に戻しましょう。
幸い、私には、弊社のミッション、
「意識の進化を呼び覚まし、人やシステムが本来持っている可能性が拓かれた幸せな未来を創ります。」
があります。
仕事の文脈では、これが今の私の錦の御旗です。
会社のミッションが自分事になっていることに感謝を感じます。
この錦の御旗を、自分たちの可能性を制限する方向に使うのではなく、まさにその言葉どおり、自分たちの可能性を拓く方向で活用していきたいと考えています。
少し長くなってしまいました。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。