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導入事例

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“NPOの成長を実現する
コーチングという投資”

かものはしプロジェクト 共同代表 本木恵介 様

2002年の設立から10年を経て、大きな成長のステージを迎えていた特定非営利活動法人かものはしプロジェクト(以下、「かものはし」と表記)。メンバーが増加し、寄付者・サポーターも増え続ける一方、内部では組織の運営などについてメンバー間で意見が分かれることが増え、その成長を阻もうとしていました。原因は、お互いのバックグラウンドや想いを聴き取るというコミュニケーションの不足。組織の亀裂が深まる中、その解決策として採られたのがコーチングスキルの修得でした。その経緯と効果について、共同代表の本木恵介さんにお話しをうかがいました。
※所属役職は取材当時のものです
業界 国際協力
スタッフ・パートナー 日本事務所:13名
カンボジア事務所:36名
インド:13団体
サポーター 正会員:60名
サポーター会員:4,011名
ボランティア登録:約600名
事業内容 コミュニティファクトリー事業、サポーター事業、政策提言事業、政府・NGOの能力開発事業、被害者支援事業

同志が衝突する状況を改善したかった

共同代表 本木恵介さん
共同代表 本木恵介さん
ー コーチングを導入されるまでの背景について教えてください。

かものはしプロジェクトは、2002年にスタートしたNPO法人です。活動内容は、子どもがだまされて売られてしまう問題を解決するために、「子どもを買えてしまう環境」「子どもを売らざるを得ない状況」の2つを改善していくことです。設立メンバーは私を含めて3名。その3名が共同代表として、現在まで組織を大きくしてきました。2012年以降にスタッフが増え、カンボジアに事務所を設立。インドでも他のNGO(非政府組織)とパートナーシップを組み、協働してプロジェクトを進めています。スタッフは約50名。インターンや現地パートナーのスタッフも含めると約200名に。寄付者・サポーターは100社4000名を超える規模に成長しました。このような成長を遂げる中、私たち設立者は徐々に「リーダーの孤独」を感じる状況になり、そのことに危機感を覚えていました。

ー なにが原因となっていたのでしょうか?

メンバーは企業出身者、起業家やNGOの出身者、ボランティア、と様々な経緯、バックグラウンドを経てかものはしに参加しています。そのメンバー間で「ミッションや想いを重視する文化」と「仕事をどんどん遂行する文化」の共存が難しくなっていきました。
前者は「やわらかいボランティアコミュニティ」を期待し、人と人の関係性を重視する傾向があります。後者は、企業出身者に多く見られ、「プロフェッショナルらしく行動しよう」としますが、その「プロの定義」が前職の常識に過ぎないことも多く、組織の実情にそぐわないことがままあります。両者とも「子どもが売られる問題を解決したい」という目的は同じですが、理想とする過程が違う。それで衝突するのです。会話がかみ合わず、気持ちもすれ違い、離職する人間が増えていきました。
NPOは設立者であるリーダーの人間性や魅力で、組織の方向性や性質が決まることが多くあります。だからこそ、組織内の衝突が増え、離職者が出ると、リーダーは孤独を感じます。「自分の影響力が足りない」「理想が説けていない」と考えるのです。一般の企業でも起こることだと思いますが、「利益を創出する」という、分かりやすい成果や目標を掲げていない分、NPOでは解消が難しいと感じています。

ー 組織外にも課題はあったのでしょうか?

インドやカンボジアのプロジェクトでは、海外現地の他のNGOとの衝突にも悩まされていました。NGOの理念や方針はリーダーに寄るところが大きい。同じ目標を掲げていても、手法や考え方は組織ごとに違います。意見がぶつかり、プロジェクトの進行が遅れていました。
組織内外にあるこれらの課題を「コーチングで解決できるのでは」と考えるようになったのは、かものはしに長年関わってくださっているメンターがコーチングの観点からアドバイスをくれていたことが大きいです。解決のヒントになれば、と2011年にウエイクアップの公開コースに参加することにしました。

関係性の改善が「リーダーの孤独」を解消

ー コーチングは組織にどのような変化をもたらしましたか?

最初はウエイクアップのコーチングの基礎コース※1を受講しました。過去の自分や出来事を振り返ると、いろんな解決策があったことが分かってきました。メンターからのアドバイスである「聴き取ること」「自分を深く知り、伝えること」が大切だったのだ、と肚に落ちましたね。NPOのリーダーは、どうしても理想や考えを発信し続けることが多くなる。でも、それではメンバーはリーダーの指示の下でしか活動できず、次期リーダーになれるような人材は育たない。また、相手の気持ちが分からないと、メンバーからの理解や共感もどこかのポイントで止まってしまう。それが「リーダーの孤独」に繋がっている。それが分かった研修は、非常に刺激的でした。他のメンバーにもこのことを分かってもらいたい、と2013年、自分が学び始めたシステム・コーチング®※2を幹部に実施しました。2014年後半からはシステム・コーチング® を組織全体に本格的に導入しました。その当時、先ほど話したバックグラウンドや考え方の違いにより、メンバー同士でのぶつかりが増えていました。私は通常の議論より深いレベルでの、価値観や考え方をすりあわせるコミュニケーションが必要だと考えたのです。つまり、傾聴するということです。効果は如実に表れました。組織内の関係性が改善すると共に、パフォーマンスが向上した実感が得られたのです。
関係性が改善したといっても「仲良しクラブ」になったのではありません。仲が良いだけの状態は、生産性が低くなります。お互いのバックグラウンドや深いところを傾聴し合い、厳しい意見や忠告ができてこそ、有事に補い合える、パフォーマンスの高い関係性が築けるのです。傾聴し合うことで、お互いの短所を認め、それを長所に変換するにはどうしたらいいだろうという話し合いが持てるようになりました。「対話や内省、コーチングにもっと時間を使っていこう」というコンセンサスが幹部の間にでき、継続的にコーチングを受けることになりました。
その後、組織内では幹部2 名がシステム・コーチング®の基礎・応用コースを受講。日本事務所・カンボジア事務所では、自分たちでシステム・コーチング® のスキルを活用して、1 日ワークショップを行ったり、ウエイクアップに依頼し、システム・コーチング® を受けたりしています。

システム・コーチングセッションの様子
システム・コーチング®セッションの様子

※1 コーチング基礎コース: コーアクティブ・コーチング®トレーニングプログラム。世界で初めて国際コーチ連盟に認定され、20 ヶ国以上で行われている実践型コーチングトレーニングプログラム
※2 システム・コーチング®: チームに対して行うコーチング。全員が肚落ちできる共通の目的について合意し、その実現に向けた全員で取り組む具体的な行動の実践を支援

ー ご自身が感じていている効果とはどんなことでしょう?

最大の効果は、「経営をともに担う仲間が増えた」こと。コーチングでは表面的なことだけでなく、本当に深い部分も話すことになる。また、相手のことを聴き取るスキルを養えます。それを通して、リーダーが背負っているものをメンバーに理解してもらい、一緒に背負ってもらうことができた。すごく解放された感があります。メンバーの当事者意識も強くなり、かものはしを自分の組織だと思って経営に参加してくれるようになったと感じています。
一方で、コーチングは簡単には修得できる技術ではないという難しさも感じています。内面を深く探求するからこそ、中途半端では人を傷つけてしまい、効果も出せない。もっと勉強して資格を取得しようと思っています。その上で、学んだことを組織内で活かしていきたい。自走できるようになりたいと思っています。

NPOの成長に欠かせない、コーチング

ー NPOにコーチングを導入する意義はなにでしょうか?

NPOは資金提供者がいて成り立ちます。その資金を個人の成長のために使っていいのか、という葛藤はありました。しかし私自身が受講し、組織全体にも導入した現在、「組織とその影響力を大きくしようと思うのなら、コーチングは効果的である」と考えています。リーダーだけで出来ることは限られている。リーダーの想いや理想に共感し、理解して、同じように動いてくれる次のリーダーが、組織の成長の過程では必要になってくるのです。そういう人材を育成するのに、コーチングは最適だと思います。
寄付して頂いたお金を、事業に直接投入することは大切なことです。一方で、組織を成長させることに使い、組織の力を向上させていくことも、結果として使命達成に結びつきます。その意味で、コーチングに投資することは費用対効果がよいと考えます。
また、コーチングにより、他組織のリーダーとの関係性も改善させることができると思っています。自分の組織だけでなく、多くの組織と協働体制を作ることができれば、目的の達成はより近づくことになる。それは本来の私たちの目的に沿うことでもあると考えています。
私たちNPOが課題としている社会問題は、構造に働きかけないと解決できません。そしてその構造は私たち人間によってつくられています。その人間を理解し共感し、そして働きかけるためにコーチングの技術や考え方が大いに役に立つと考えています。

インドでの活動の様子
インドでの活動の様子
取材日:2016年6月29日
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